「管理職」は「管理監督者」で、残業代等は出ないのか。

こんにちは。弁護士の今春です。


福井労働局敦賀労働基準監督署が、関電の社長に対し、
課長職の男性が過労自殺した件に関連して、「管理監督者」の労働時間を
適切に把握するよう指導したとのニュースが流れていました。
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/nuclearpower/113220.html


以前、このブログでも書きましたように、使用者(会社、雇い主)には、
労働者の労働時間を個別に把握、管理する義務があります。
そのため、関電が労働者の労働時間を確認できなかったというのであれば、
指導は当然のことです。


過労自死をされた男性について、上記の記事では、
「関電に是正勧告の対象となる法律違反はなかった」とされていますが、
記事で出てくる「管理監督者」というのは、
残業代等の支払を免れるために悪用されがちであるのが現状です。


今回(と次回)は、この「管理監督者」について、説明したいと思います。



1 労働基準法41条2号


みなさんの中には、「管理職」であれば、
残業代等は出ないと思い込んでいる(思い込まされている)方も多いかもしれません。


このような思い込みは、法律上、誤りなのですが、そのような誤解が生じる
そもそもの原因は、労働基準法41条の2号にあります。
この労基法41条は、「労働時間、休憩及び休日に関する規定」を、
特定の「労働者については適用しない」としていて、その労働者として、同条2号が、
「監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」
(これを「管理監督者」といいます。)と挙げているのです。


この条文によって、「管理監督者」に当たる人は、
法定労働時間(1日8時間、1週40時間)、
休憩(8時間超の労働に1時間等)、休日(1週に1日以上)、
時間外労働等に対する割増賃金(時間外労働に対して25%等)等の規制が
適用されないことになっています。
(ただ、深夜労働に対する規制は、「管理監督者」であっても除外されないとの
最高裁判例がありますので、深夜労働の割増賃金の請求はできることになりますし、
年次有給休暇も取得できるとされています。)



2 「管理監督者」が悪用されている!


さて、この「管理監督者」ですが、これにあたるとなれば、
労働基準法の規制がかなりの範囲で及ばないことになるので、
「管理監督者」にあたるのとあたらないのでは、労働者にとっても使用者にとっても、
大きな違いです。


ところが法律の条文には、「監督若しくは管理の地位にある者」としかありません。
この言葉だけでは、具体的に、一体どのような労働者であればこれにあたるのかが、
あまり明確ではありません。
そのため、できるだけ労働基準法の規制から逃れたいと考える使用者は、
本当は「管理職」とは言えないような労働者まで「管理職」と取り扱い、
「管理監督者」なのだから残業代等を支払わない!などと強弁するようになり、
トラブルも増えたのです。


最近では、有名ファーストフードチェーンが、大した権限もないような労働者を
「店長」とし、残業代等の支払を免れていたとの裁判が有名になりました。



3 「管理監督者」にあたる労働者とは


どのような労働者が「管理監督者」にあたるかは、
なぜ法律が「管理監督者」には労働時間等の規制が及ばないとしたのか、
その理由から考える必要があります。
それは、「管理監督者」なら自分で労働条件を決められ、
労働時間の管理等についても使用者・経営者と同じ立場にあり自分でできるから、
とされています。


経営者は、労働者ではなく、自分自身の仕事として自分の判断で働きますから、
労働時間等の制限を受けません。
自分の責任で、自分のために動いているのですから、
労働基準法の規制はなじまないということになります。


これに対し、労働者は、他人(使用者)から指揮命令されて働くのであって、
自分自身の責任で自分のために動いているのではないため、
弱い立場になりがちであり、労働基準法の規制が及ぶことになります。
ですが、労働者であっても、経営者と同じような立場で仕事をする人に限っては、
経営者と一体的な立場であるとして、労働時間等の規制を及ぼす必要はなく、むしろ、
そのような制限があれば果たすべき職務や責任を果たせなくなるから規制を及ぼさない、
と扱っているのが、この制度です。


そのため、「管理監督者」と言えるためには、
経営者から自らの裁量で行使できる一定の権限が委ねられているような立場であり、
「経営者と一体」とみることができる立場であることが必要となるです。
逆に、「店長」「課長」「リーダー」などの肩書きを与えられていても、
多くの事項について上司の決裁を必要とする立場であるとか、
権限や裁量をあまり与えられていない立場であるというなら、
それは「経営者と一体」ではなく、「管理監督者」ではないということになります。


「管理監督者」は、経営者と一体的な立場の労働者に限られるのです。



4 裁判所は「管理監督者」にあたるといえる範囲を厳格に解釈している


上記のファーストフードチェーンの事件で、裁判所は、「店長」といっても、
その店舗の内部事項についてしか権限や責任が与えられていないのであって、
名ばかりの管理職に過ぎず、法律にいう「管理監督者」とはいえない
との判決を出しました。
このほかにも、いわゆる「管理職」とされた労働者が、
法律でいう「管理監督者」にあたるかは多くの事件で争われ、判決も出ていますが、
裁判所は、多くの事件で、法律にいう「管理監督者」を厳格に解釈し、
多くの労働者はこれにあたらないとの結論を出しています。


ですから、世の中でいわゆる「管理職」とされる労働者であっても、
その多くは「管理監督者」ではないとされると言ってもいいかもしれません。


「管理職」は「管理監督者」で、残業代とは出ないというのは、間違った認識なのです。


次回に、裁判例で、「管理監督者」かどうかはどのように判断されているかを、
解説したいと思います。