どのような労働者が「管理監督者」にあたるのか。

前回、裁判所は、「管理監督者」を厳格に解釈しており、
「管理監督者」にあたる労働者はそれほど多くないとの判断をしていると書きました。


今回は、どのような労働者が「管理監督者」にあたるとされているのか、
具体的に解説したいと思います。



1 3つの判断要素


「管理監督者」にあたるかどうかの具体的な判断要素は、
大きく分けて3つあるといわれています。


まず1つ目は、
労働者の職務内容、権限、責任からみて、経営者と一体的である
と言えるほどの地位にあること
ということです。


2つ目は、
労働時間、出勤・退勤時間等について自由な裁量があること
です。


もう1つの基準は
待遇面で、その地位にふさわしい優遇を受けていること
です。


順番に見ていきます。



2 職務内容、権限、責任から、経営者と一体的な立場か。


「管理監督者」は、経営者と同じ立場といい得るから、
本来及ぶ労働者保護の規制を及ぼさないとしているのですから、
経営者と一体的な地位と言えるほどの職務内容で職務遂行をしているかどうかが、
「管理監督者」にあたるかどうかを決める鍵になります。


経営者と一体的な地位かどうかは、
経営にとって重要な会議に出席している、経営に関する意思決定に関わっているなど、
その企業の経営へ参画しているとか、
他の労働者の採用や解雇、人事考課、昇進・昇格等へ関与しているなど、
労務管理について指揮監督権を有しているとか、
経営計画策定や予算案編成へ関与しているなど、
職務の内容や責任が重要であるとか、
これらの要素を総合的にみて判断します。


裁判例では、たとえばある一部門を統括する立場にあっても、
それだけでは経営者と一体とは言えず、その統括する立場が
企業全体からみて事業経営上の重要な位置づけとされていて、
企業全体の経営へ参画していたといえるような立場の労働者が
「管理監督者」といえるとしています。


また、飲食店などで店長、店舗責任者とされていても、
その店舗のみの事項に権限、責任が限られているような場合は、
やはり経営者と一体的な立場と言えるような
重要な職務と権限を付与されているとはいえないとしています。


さらに、他の労働者の労務管理に関わっていたといっても、
部下からの届出に承認を与えるとか、人事考課に際して意見を言う程度とか、
上位者の考課が予定され、最終的に考課の判断をしているわけではないとかの場合は、
これも経営者と一体的な立場にあるとはいえないとされています。



3 労働時間が自由であるか。


「管理監督者」は、労働時間の規制をしなくても、
労働者保護に欠けることにはならない立場といえなければならないのですから、
逆にいうと、自分の判断で、必要に応じて労働時間を調整できるだけの裁量を持ち、
実際にそれを行使できることができるということになります。


そのため、タイムカード等で労働時間を管理されているとか、
出勤・退勤時間を決められているという立場であれば、
「管理監督者」ではないとなるでしょう。


また、業務の内容から長時間労働を余儀なくされ恒常的に残業を強いられていたとか、
労働時間のほとんどを経営判断と関係のない現場作業等に費やされていたなどの場合も、
労働時間を労働者自らが自由に調整できたとはいえないとなり、
「管理監督者」ではないということになるでしょう。



4 待遇面で優遇されていること


「管理監督者」は、経営者と一体的な立場であり、普通の労働者とは異なるのですから、
十分な待遇面での優遇があって当然です。


ですから、特別手当が支給されるなどの優遇があるか、どの程度優遇されているか、
その優遇の理由は何に対する対価か、などが重要となります。
また、労働者全体の中で待遇の水準の位置付け、
「管理監督者」になる前の収入とどれだけ変化があるか、
「管理監督者」ではない労働者とどれだけ賃金に差があるか、
なども、重要な判断要素とされることになります。



5 やっぱり「管理監督者」はそれほど多くない


以上、「管理監督者」といえるかどうかの判断要素を見てきましたが、
いかがでしょうか。
「管理監督者」といえるのはごく一部の労働者であり、
企業の経営にタッチしているような立場でなければ「管理監督者」ではないのだ
ということがおわかりいただけたでしょうか。
繰り返しますが、いわゆる「管理職」だからといって、
法律上でいう「管理監督者」ではありません。
「管理職」だからといって当然に残業代等の支払を受けられないとはならないのです。


なお、就業規則や労働者個別の合意で、その労働者を「管理職」とし、
残業代を支払わないとしている事例も多くみられます。
しかし、これまで見てきましたように、
「管理監督者」かどうかは法律上当然に決まります。
そして、法律上「管理監督者」にあたらなければ、
残業代等の適用除外は許されないことになります。
ですので、法律上「管理監督者」にあたらない労働者について、
いくら使用者が「管理職」の肩書きを与えようと、
労働者個人と個別に「管理職」とすると合意しようとも、それは無効です
(このような合意等の効力が否定された裁判例はいくつもあります。)。


あなたは「管理職」だから残業代は支払われないと使用者から言われている、
そのような確認書に署名した、などという方も、
ご自身が本当に、法律上「管理監督者」といえるかどうか、
法律上、残業代等の支払を受けられない立場なのかは、
疑ってみて良いかと思います。