厚労省の「長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果」

こんにちは、大阪の弁護士の今春です。


1月17日、厚生労働省が、
「長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果を公表します」
との資料を発表していました。



これによると、3450の事業場で、月80時間を超える残業があったと
認められたとあります。


この点、月45時間を超えて時間外労働が長くなれば、
脳血管疾患、虚血性心疾患等の発症との関連性が強まる、
月80時間を超えれば、関連性が強いといえる、
とされています。
そのため、月80時間以上の時間外労働は、
いわゆる過労死ラインなどと言われているのです。
その月80時間を超える時間外労働をさせている事業場がこのような多数に及ぶ
というのは、尋常ではありません。


また上記の資料によると、月200時間を超える事業場が116もあった
とされています。
法定労働時間は月173.81時間(365日÷7日×40時間÷12か月)
なのですから、月200時間も残業するということは、
月373時間以上も働いているということです。
単純に月30日として計算しても、1日12時間働いてもまだ全然足りません!
寝る以外には全て働き、1日の休みも与えられなかった職場ということになります。
本当に尋常ではありません。


さらに目を引くのは、残業代を払っていない事業場のうち、
月80時間を超える事業場が実に63%を占めたとされていることです。
やはり、長時間の残業を強いるような職場は、
残業代を支払わない傾向を示しているということです。


今回の調査で、厚労省は、問題のあった事業場の実名等を公表していませんが、
もはや公表を躊躇している程度ではないと思います。


実際に行われた指導例も、載せられていました
(上記ウェブサイトにある、別添2監督指導事例というPDF)が、
これも本当にひどいですね。


事例1は、サブロク協定で決められた月80時間の制限を守らず、
最も長い労働者で月200時間も残業させていたというのです。
サブロク協定での残業制限時間が、月80時間とされていたということ自体、
過労死ギリギリまで働かせるという姿勢が丸見えです。
そもそもサブロク協定でも、原則月45時間以上の上限時間を定めることはできず、
臨時的(一時的突発的)に限度時間を超えなければならない特別の事情があるときのみ、
これを超える時間を限度時間とできるとされているのです
(この事業場も、この例外制度を利用しているようです。)。
ところが、この事業場は、臨時的ではなく、恒常的に月80時間を超える
労働をさせています。
サブロク協定は形だけ定めたというしかありません。
しかも、実際にはその疑問のあるサブロク協定の制限さえ守らず、
月200時間もの労働をさせていたというのです。
使用者の労働者に対する、働かせるだけ働かせたいとの強固な意志が、感じられます。
悪質との評価を免れません。


事例2はもっとひどいです。
サブロク協定の上限時間を月120時間とし、かつ、それさえ守れないことから、
上司がタイムカードを不正打刻し、月120時間以内しか残業がないように装った、
かつ、タイムカードで記録した労働時間以外の残業代は支払っていなかった、
というのです。
既に別の記事で書きましたが、
使用者は労働者の労働時間を個別に把握、管理する義務があります。
実際と異なる労働時間を不正に作出するなど、もってのほかです。
このような悪質な行為を、会社が組織的にしていたというのですから、
一体何をしてくれているのだといいたくもなります。
さらに、サブロク協定で、月120時間の上限時間を定めていたということですが、
上記のとおり、月80時間以上は、過労死に結びつくぞと警告されているのです。
それにもかかわらず、「臨時的」に
(この事業場の実際の労働環境では、臨時でも何でもありませんが。)であれ、
これを大幅に上回る月120時間も労働させることがあるとなどとの協定は、
そもそもその効力に疑問が持たれていいレベルと思います。


事例3も振るっています。
サブロク協定の上限時間を月125時間(!)とし、
さらにこれを超えて月160時間もの労働をさせていたというのです。
信じられないというべきレベルです。
さらに、この事業場は、引越業ということですが、1日最大16時間以上の拘束
(1日の途中で仕事がない時間(次の仕事までの待機時間等)があり、
その時間は労働時間として扱わないとしていたということです。)、
1か月の総拘束時間が320時間を超え、
なおかつ、勤務を終えて帰っても8時間後には働かされている
という労働環境であったというのです。
この使用者は、労働者をもはや人間と扱っていないといわれても仕方がないと思います。



不幸にしてこのような職場で労働に従事している方は、一刻も早く、
労働を専門とする弁護士へのご相談を強くおすすめします。


もちろん、私も、ご相談をお受けします。