風邪で休んだら「罰金」を取られる?

コンビニ店が、風邪で2日欠勤したアルバイト店員に対し、金銭的なペナルティを課し、
給料から差し引いていたという事例が報道されています。




1 賃金全額払いの原則


そもそも、給料(賃金)は、「直接労働者に、その全額を支払わなければならない」
(労働基準法24条1項)とされていますから、
労働者の合意もなく「罰金」を給料から差し引くなど、論外です。
労基法は、使用者による、労働者に対する賃金の一方的な控除を認めれば、
労働者に著しい不利益を及ぼすこととなるとして、
使用者が労働者に対して債権を有していたとしても、
勝手に賃金と相殺や控除したりすることを許していないのです。


それにもかかわらず、使用者が「罰金」の天引きを行ったというなら、
それは労基法違反として、刑罰の対象にもなります。
ですから、今回のペナルティに法的根拠がないことは明らかですが、
仮にこの「罰金」に法的根拠があったとしても、
その「罰金」を給料から天引きされることは許されないのです。



2 風邪で休むことがペナルティの対象になることはない


今回の事例では、アルバイト店員は「風邪」だったそうです。


風邪を引いて労働ができなくなるということは、日常生活において、
当然に予想できることです。
このような場合、よほどの例外があるというなら別です(「風邪」の場合、
おそらく例外はないでしょう。)が、労働者に責めるべき理由はありませんので、
労働が提供できないとして欠勤しても、使用者から労働契約違反を
問われることはありません。
もちろん、懲戒される理由もありません。


そのため、「風邪」で休むというアルバイト店員に対して、
ペナルティを課そうという使用者には、正当化される根拠はありません。


加えてこの事例では、アルバイト店員に別の人員を確保しろと命じたということです。
しかし、労働者の側にそれに応じる義務はありません。
アルバイト店員に人員配置の業務と責任が与えられていたとは思えませんし、
仮に与えられていたとしても、自分が風邪を引いた場合まで人員を確保する責任が
あるとみなければならない根拠はありません。


私がチラッと見たテレビのニュースでは、インタビューされた通行人が、
「別の人を探すのは当然だと思うが、、、」などとコメントしていましたが、
全く当然ではありません。


なお、この事例の労働者はアルバイト店員だということですが、
アルバイトであっても、有給休暇は発生します。
また、所定労働時間が週30時間未満で、たとえば週1日のみ労働日数という場合でも、
6か月継続勤務すれば、1日の有給休暇が付与されることになります
(労働基準法施行規則24条の3第3項)。
ですから、前回もお話ししたように、有休があるなら、労働者とすれば、
有休を取りますと言えばいいだけなのです。
コンビニ店員が風邪を理由に有休を取ろうとする場合に、
「事業の正常な運営を妨げる場合」にあたることなど、まずないでしょう。



3 労働で「失敗」があったとしても、当然「罰金」が成立することにはならない


アルバイトに限らず、実際の労働の現場では、労働において生じた「失敗」に対して、
ペナルティを当然のように課すことが、横行しているようです。
私が相談を受けたりした中では、体調を崩して休んだような場合の他にも、
レジの金があわなかった場合とか、皿などを割ってしまった場合、あるいは、
ノルマが達成できなかったという場合にも、「罰金」などとして、
金銭的なペナルティを課されたという事案がありました。


これらについては、いずれも、それらを故意にしたというのでもない限り、
ペナルティを受け入れる必要はありません。
労働に際して、レジの金があわないとか、皿が割れたなどということは、
その業務の中で予測されることです。
そのため、これにより損害が生じたとしても、業務上の経費などとして、
経営者が負担すべきものなのです。
それなのに、労働者にその負担を求めることには、根拠がありません。
ノルマの未達成についても、労働者には、ノルマを達成する法的義務までありません。
ノルマが達成できなかったから「罰金」などというのは、暴論でしかありません。


なお、これらの場合「懲戒処分」等としてペナルティを課そうとする使用者もいますが、
これにも理由はありません。
「懲戒処分」は、予め就業規則などで、どのような場合が「懲戒」にあたるのか
決められていなければならず、かつ、それが合理的な内容でなければなりません。
上記のような事由での「懲戒」が、合理的であるはずがありません。


今日は節分で、コンビニなどは「恵方巻」の販売に一生懸命ですが、
もし、「恵方巻」の買い取りを要求されても、これに応じる義務はありません。
ましてやペナルティを課される根拠はありません。
それにもかかわらず、使用者が執拗に要求してくるというのであれば、
それは強要や強迫になります。

有給休暇(有休、年休)の取得について

求人サイトで、「有給休暇の記事」が載ったところ、有給休暇の趣旨を
誤解させる表現があり不適切として、削除されたとの記事が出ていました。



この記事に関連して、有給休暇の話をしたいと思います。



1 有給休暇は理由なしで取れる


有給休暇は、労働者の権利であり、労働者が、「時季指定権」を行使、
すなわち、労働者が有している有給休暇日数の範囲内で、
具体的にいつからいつまで休むと特定して使用者に通知すれば、
それだけで成立します(労働基準法39条5項)。


有休を取るのに使用者の承認は必要ありません。


有休を取る理由にも制限はありません。
ひどい二日酔いとか、彼氏と大ゲンカしたとか、寝坊したとかなど、
他からしたら無責任であるような理由でも全く問題ありませんし、
そもそも理由がなくてもかまいません。
理由を言う必要も原則としてはありません。
労働者の側が、有休取得が常識的かどうかを考える必要もなく、
むしろ、使用者が有休取得を気軽にできない職場環境を放置していることの方が
「非常識」です。


ですから、求人サイトの記事は、有休を取得するにあたり、
しかるべき理由や常識が必要であるかのように誤解させる余地があり、
適切ではないということになるでしょう。



2 使用者の「時季変更権」


ただ、有休の取得については、事前の申告制になっている職場もあるかと思います。
あるいは、労働者の「時季指定権」の具体的な行使方法が、就業規則などで
決められている職場もあろうと思います。


これらの規定も、それが不合理でない限り有効であると考えられます。
そのような定めがある場合には、これに従って、有休の取得をすべき
ということになろうかと思います。実際にも、
「「休暇を請求する場合は、原則として前々日の勤務終了時までに請求する」旨の
定めは、労働基準法39条に違反しない」とした裁判例があります。


では、このような定めによらずに「時季指定権」を行使した場合、たとえば、
求人サイトの記事の例のように、当日の朝、始業時刻の直前になって
「今日、有給取ります」と言った場合には、有休が取れないのでしょうか。


これは、労働者の「時季指定権」に対し、使用者が「時季変更権」を行使したときには、
例外的に労働者がその日には有給休暇を取得できないとされている
(労働基準法39条5項但書)ことと関連して問題になります。


この使用者の「時季変更権」とは、使用者は、
労働者の「時季指定権」にしたがい有給休暇を与えれば「事業の正常な運営を妨げる」
という場合、他の時季に有給休暇を与えることができるというものです。
使用者は、労働者が「時季指定権」を行使して有給休暇の取得を言ってきた場合も、
その日に有休を取られると「事業の正常な運営を妨げる」といえる場合には、
その日の有休を認めない、と言うことができ、
労働者が使用者からそう言われれば、その日は有休を取得できないのです。



3 単に職場が忙しいというだけでは、有給休暇の取得を妨げられない


ただ、ここにいう「事業の正常な運営を妨げる場合」は、
その労働者のその日の労働が、職場のその日の業務に必要不可欠で、
休まれると職場全体の業務が阻害されるし、代替要員も確保が困難であるような場合
をいいます。
単に忙しいとか、定例会議への出席が予定されているなどというだけでは、
これにあたりません。


実際の職場では、職場が忙しいとか、人が足りてないとか、同僚に気兼ねする
などの理由で、有給休暇取得をためらう方も多いと思いますが、
そもそも使用者には、労働者に有給休暇を取得させなければならず、
労働者が希望する時季に有給休暇を取得できるように、
人員配置や業務を整える義務がありますので、労働者が遠慮する必要はないのです。
また、理由がしょうもないとか、個人的な理由に過ぎないとかであっても、
堂々と有給休暇取得は許されます。
理由を告げる必要もありませんし、実際とは違う理由で申告したとしても、
それだけで問題だということにはなりません。



4 直前に有休の取得はできないのか?


使用者とすれば、労働者から「時季指定権」の行使があった場合に、
上記の「事業の正常な運営を妨げる場合」にあたるかどうかを判断する必要があり、
そのために一定の時間が必要でしょうから、
労働者としても、時間的余裕をみて「時季指定権」を行使すべきというのが
原則となるでしょう。
上記で、「時季指定権」の具体的行使方法が、就業規則その他で決められている場合も、
それが不合理でない限り有効と説明したのも、このことに基づきます。


しかし、上記の例のように、その日の始業時刻の直前になって、
労働者が「時季指定権」を行使した場合であっても、
直ちにその時季指定権が無効となるとはいえません。
あるいは、定められた「時季指定権」の行使方法に違反して有休取得を言ってきた、
という場合も、それだけで有休が認められないことにはなりません。


労働者の有給休暇取得を妨げることができるのは、
客観的に「事業の正常な運営を妨げる」事情がある場合だけだからです。
「急に休まれる」というだけでは「事業の正常な運営を妨げる」とはいえません。


ですから、上記のように、直前に労働者から「時季指定権」の行使があったとしても、
それだけで有給休暇の取得を認めないと、使用者が言うことはできません。
その労働者がその日に休むと、「事業の正常な運営を妨げる」かどうかを、
使用者が速やかに判断し、妨げられる理由があるという場合には、
「時季変更権」を行使して、その日の有給休暇取得を認めないという手順を
ふまなければなりません。
そうでなければ、有給休暇取得は認められることになります。


求人サイトの記事の例で言えば、「大事な会議がある日」の朝に、
労働者から「時季指定権」が行使された場合、その労働者が「大事な会議」に
欠席すれば「事業の正常な運営を妨げる」ことになるのであれば、
使用者が「時季変更権」を行使し、出勤を命じればいいのです。
もちろん、この場合、なぜ急に「時季指定権」を行使するのか、その理由によっても、
使用者が「時季変更権」を行使するかどうか、影響するでしょう
(身内が危篤などであれば、「大事な会議」があっても、出勤せよと命じるのは
おかしいでしょう。)から、使用者が労働者に理由を聞くことは許されるでしょう。
それでも、その場で「時季変更権」を行使できるかどうか、
できるとして行使するかどうか、を即座に判断して、対応すればいいことなのです。


いずれにしても、「社会人としてあり得ない」と揶揄しているのでは足りません。

残業「月80時間」の上限規制?

1 残業「月80時間」規制?


残業時間について、「月80時間」との上限規制を設け、
長時間労働の是正策とする方向で「調整に入った」との報道がなされています。


http://mainichi.jp/articles/20170125/ddm/001/010/140000c


月80時間以上の残業をさせる事業場が多数あるという現在の状況を考えれば、
残業時間の規制が明確に設けられること自体は、いいことだと思います。
これに違反すれば、労働基準監督署などによる指導を積極的に促すことも
できるからです。



2 残業「月80時間」なら、脳血管疾患になるよ!


しかし、前にも書きましたように、残業が月80時間というのは、
「過労死ライン」とされている労働時間です。
残業が月45時間を超えると、脳血管疾患や心疾患等の発症との「関連性が強まり」、
月80時間を超えれば「関連性が強い」とされているのです。
乱暴に言えば「残業月45時間以上働くと脳血管疾患等になりやすいよ。
月80時間を超えればなるよ!死ぬよ!」ということなのです。

また、労働法関係で「上限」が定められれば、その数値が普通であるかのように
取り扱われる傾向が強いことからすると、「月80時間までなら残業させ放題!」
との誤った認識が広まることも懸念されます。
法定労働時間の月173.81時間に加えて月80時間も働くということは、
月253.81時間働かせてもいいとのお墨付きを与えることになりかねないのです。
月253.81時間働くということは、平日は毎日12時間以上働くということです。
このような働き方(働かせ方)が、普通などとされてはいけません。


記事にも出ていますが、上限を定めるなら残業は月45時間以内とすべきでしょう。
この時間を超えると、「脳血管疾患等になりやすいよ。」と指摘されているのです。
長時間労働による労働者の健康被害を防ぐというなら、
この月45時間を超えてはいけません。



3 例外は不要


なお、この残業月80時間規制も、よくよく調べると、
様々な例外を設けようとする動きもあるようです。
記事でも、「運輸業などで認められている適用除外も残す方向」などとされています。


運輸業などは、それこそ慢性的な著しい長時間労働が跋扈しているのが現状であり、
長時間労働の規制がむしろ強く要請されるはずです。
そもそも、上記のように、月80時間の残業は、平日に毎日12時間以上
働くことを意味しているのですから、本当に業界として、それ以上働かせる必要がある
というなら、それはもはや「ブラック業界」を名乗らなければなりません。
例外を設ける働かせ方を容認する必要はないはずです。


仮に、一時的な例外もやむを得ない(そのようなことはないと思いますが)としても、
それが常態化しないようにする仕組みにしなければ、かならず、
原則と例外が逆転していきます。


原則と例外ということでいえば、1日8時間、1週40時間労働が「大原則」であり、
労働基準法32条は、これを超えて「労働させてはならない」としているのです。
法定労働時間内の労働が原則、それ以上の残業は例外なのです。



4 世論が大事


この規制は、2019年度からの導入を目指すということですので、
今の国会の状況からすれば、あっという間に固められてしまうと思います。


一方、政府・与党関係者も「世論の動向も重要だ」とするようですので、
長時間労働の是正と称して設けられた規制が、いつのまにか、
著しい長時間労働を正当化、常態化させる制度とならないよう、
関心をもっていく必要があります。


自らを「社蓄」などと蔑んで、
長時間労働は仕方がないと諦めている場合ではありません。