労働時間とは(労働時間に入るもの、入らないもの)

今日は、「労働時間」とは何かについて、書いてみます。

1 労働時間の考え方と、それに含まれるもの

労働時間とは、使用者(雇い主、会社)の指揮命令にしたがって
実際に労働力を提供した時間のことをいいます。
労働は、使用者の指揮命令により働き、その対価をもらうというのが本質ですから、
労働時間というのも、この「使用者の指揮命令」下にあったかどうかで、
客観的に決まるとされているのです(この点に関する大事な判決例として、
最高裁判所平成12年3月9日判決三菱重工業長崎造船所事件というのがあります。)。


客観的に決まるのですから、実際に職場で仕事を行っている時間は当然として、
参加が義務付けられている朝礼、ミーティング、引き継ぎや点呼の時間、
仕事の準備(仕事上義務付けられている作業服や制服への着替え)や整理の時間、
仕事の途中で次の仕事を待機している時間(「手待時間」などといいます。)
なども、労働時間に当たります。


使用者が行うような、研修や訓練等についても、その参加が義務付けられていたり、
欠席理由が必要であったり、あるいは出欠が昇進や査定等に影響があったりする場合
であれば、労働時間に当たることになります。
サークル活動やQC活動なども同様と考えられ、
場合によっては接待要員として接待の場に命じられて参加すれば、
それも労働時間に当たると考えられます。


また、所定の労働時間内には終了しないような仕事を命令されている場合は、
残業禁止などと言われていたとしても、残業をしなければ仕事は終わらないのですから、
実際に残業した以上、労働時間に当たるのは当然ですし、
自宅に持ち帰って作業をさせられるのであれば、その時間も、労働時間に当たります。



2 休憩時間は労働時間ではないが、場合によっては休憩ではないこともある


労働基準法で、労働時間が6時間を超える場合には最低45分、
8時間を超える場合は最低1時間の休憩を、労働時間の途中に与えなければならない
とされています(労働基準法34条1項)。
休憩中は、労働から解放され、労働者が自由にできる時間ですから、
これは労働時間には入りません。


しかし、休憩といいながら、仕事から開放されないのであれば、
それは休憩とはいえず、労働時間に入ります。
たとえば、昼休みといいながら、来客や電話があればその対応をしなければならない
という場合は、休憩ではなく、労働時間と認められることも多いです。

なお、短時間(5分とか10分とか)、トイレや喫煙の時間があったとしても、
その程度の時間であれば、労働から解放されたとは言い難いので、
休憩時間とはいえないとされる場合も多いと思います。



3 仮眠時間も労働時間に入ることがある


夜勤などで、労働者が勤務中に仮眠することが予定されていることもあると思いますが、
この仮眠時間も、場合によっては労働時間になり得ます。


仮眠中も、何か必要があれば仮眠を中止し、作業等をしなければならない
とされている場合であれば、仮眠中も労働から解放されているとはいえませんので、
仮眠時間も労働時間に入ると考えられます(ビル管理の仕事などにおいて、
仮眠時間全体を労働時間と認めた、いくつか裁判例があります。)。



4 使用者には労働時間の把握義務がある


実際に裁判等となったり、そうでなくても残業代の支払いを使用者に求めたりする段
になると、使用者の側が、労働時間を争ってくる場合はよくあります。
労働者が、自分の提供した労働時間を毎日付けていることは稀であるため、
使用者が、労働時間が分からないとか、所定労働時間にしか労働させていない、
などとの態度に出てくると、労働者としては、たちまち不利な状況におかれる
ということも少なくありません。


しかし、まず、使用者は、労働者ごとに労働時間数、時間外や休日労働時間など
を記載した賃金台帳を作成しておかなければならないことになっています
(労働基準法108条、労働基準法施行規則54条)ので、そもそも、
使用者が実際の労働時間を把握していないことなど、許されないのです。


また、厚生労働省通達に、
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」というのがあり、
使用者は、労働者の始業・終業時刻の確認・記録をしなければならない
とされており、かつ、そのためには、労働時間について


使用者が自ら現認して確認、記録する、とか、
タイムカード等で客観的な記録を取らなければならない、
のが原則とされ、


やむを得ず自己申告制をとる場合には、実態を正しく記録し、適正に申告させる、
申告された労働時間が実態に合致しているか実態調査をする、
適正な申告を阻害するような制度をしないこと
などが定められています。


このように、使用者には、労働者の労働時間を個別に把握しておく義務があるのです。

残業とは?残業は義務なのか?

今日から私の事務所も、本格始動です。


今日は、残業そのものの考え方について、書いていきます。


1 所定労働時間(=働かないといけない時間)について


1日何時間働く義務があるのかは、労働契約によって決められています。
労働者が労働契約で、働かないといけないとされる時間を、
「所定労働時間」といいます。
この「所定労働時間」は、通常、就業規則で決められています。
就業規則では、始業時刻、終業時刻を定めなければならないとされています
(労働基準法89条1号)から、就業規則がある以上は、
労働時間は1日何時間というだけではなく、何時から何時までという時間帯も
必ず定められているということになります。
就業規則がない場合でも、採用されるときなどに、
働く時間は何時から何時までと示されることが多いと思いますので
(示されないようであれば、「ブラック企業」のにおいがするとなるでしょう。)、
それが「所定労働時間」になります。


この「所定労働時間」の時間外に働くと、所定労働時間「外」労働となり、
別料金が発生するということになります。


これがいわゆる残業代です。



2 法定労働時間(=法律で定められた労働時間の上限)について


一方で法律は、原則としてこれ以上働かせてはいけないという基準を、
1日単位と1週間単位の両方で設けています。
労働基準法32条で、労働時間は、1日では8時間、1週間では40時間を
超えてはならないとされていて、労働時間の上限を定めているのがそれです。
これを、「法定労働時間」といいます。


そのため、いくら労働契約や就業規則その他で、1日8時間、1週40時間を
超える労働時間を「所定労働時間」と定めても、それは無効です。
(「変形労働時間制」という例外がありますが、これは就業規則や労使協定で
予め定めていなければならず、かつ、法律で決められた細かい条件を満たす必要が
あります。)


ですから、どんな労働時間の決められ方がされていても
(あるいは、決められていなくても)、1日8時間、1週40時間を超えて労働すると、
所定労働時間「外」労働となり、別料金が発生するということになります。



3 残業する義務があるのか


上記の1日8時間、1週40時間の「法定労働時間」は、人を労働させる場合の
上限の時間です。
これを超えて労働させること、残業させることは、できないのが大原則です。
ですから、1日8時間、1週40時間を超えて残業しなければならない義務も、
本当はないというのが大原則なのです。
(なおこの点、たとえば、就業規則等で1日7時間が所定労働時間とされていて、
あと1時間働かされたという場合は、その1時間は残業であり残業代は発生しますが、
残業する義務はないとは言い切れません。)


この大原則にもかかわらず時間外に労働をさせれば、労働基準法違反となり、
懲役6か月以下、または罰金30万円以下の犯罪とされてもいます
(労働基準法119条1号)。


ところが、現在の労働基準法には上記の大原則に大穴が空いています。
労働基準法36条というやつです。


これには、使用者と労働者との間で書面で協定をし、それを行政官庁に届け出れば、
例外的に法定時間を超えて労働させたり、法定休日に労働させることができると
あります。
つまり、労働者と使用者の間で、時間外や休日労働について合意した内容を
書面にまとめ、その届出がなされている場合は、それにしたがって、
時間外や休日労働をさせても適法になるとされているのです。
この協定を、労基法36条による協定なので、サブロク協定と言われており、
かなりの場合、このサブロク協定が存在するので、法律の大原則と例外が、
実際には逆転しているような格好となっているのが現実なのです。



4 残業が前提というのはおかしい。


サブロク協定の存在のため、残業は当然で、命じられれば残業しなければならないのが
原則のようになっているのが現状といっても過言ではありません。


ただ、サブロク協定は、その条件が法律で定められていますし、
労基署に届出をしなければ効力がありませんから、
実際には、サブロク協定がなかったり、その効力がなかったりして、
実は残業自体、法律違反だという事案も、少なくありません。


また、厚生労働省労働基準局昭和63年3月14日第150号通達というのが
ありまして、これには、残業というのは、臨時的、一時的に、
やむを得ない必要がある場合に限って認められるとされています。


さらにいえば、たとえば、育児介護休業法という法律には、サブロク協定があっても、
原則として、小学校就学前の子どもを養育する労働者には、
1か月24時間、1年150時間を超えて労働時間を延長してはならない
という規定もあります(育児介護休業法17条1項)。


残業が当然のように扱われるとか、ほぼ毎日残業する義務がある、というのは、
本当は、全くおかしいことなのです。


しばらく続きます。

超過労働と残業代の請求

明けましておめでとうございます。


今日が仕事始めという方も多かったでしょうか。
弁護士の事務所はというと、概ね仕事始めは遅く、4日からというのは少なく、
大体5日か、あるいは6日からというところが多いのではないかと思います。
私の事務所も、例年6日が仕事始めとなっています。


ただ、弁護士自身が、6日まで休んでいるかというと、そうでもなく、
年末にやり残した仕事の片付けとか、電話があまりかかってこない今のうちに
落ち着いて調べ物をしたりとか、なんやかんやでフライングスタートを切ることが
多いです。
私自身も、締切の迫った作業があったり、出張が入ったりで、今年は今日から、
幸先の良いスタートを切らせていただいています。


さて、年末には、いわゆる大企業の超過労働が話題になりました。
一昨年に、長時間の残業や苛酷な労働環境により自死に至った女性の遺族の声が
取り上げられるなど、社会問題として取り上げられていました。
生活のために労働しているのに、長時間の労働を強いられ絶望し、自死するなど、
悲劇以外の何ものでもありません。


実際、みなさんの中にも、自死に至るか否かはともかくも、長時間の残業に従事し、
中には「サービス残業」をやらざるを得ない方は多いかもしれません。


これまで、残業が当たり前とか、残業せずに帰るのは不真面目とか、ましてや、
残業代を請求するなど、もってのほかなどとの風潮が存在することも現実ですね。
しかし、これは本当におかしなことです。


そもそも労働契約は、労働力の提供と、これに対する報酬の支払いを基本のきと
するものです。
労働力の提供については、その提供時間が、法律と契約で定められているのですから、
それを提供したなら、それ以上の労働力の提供をする義務はないのが原則です。
また、決められた労働時間を超えて労働力を提供したなら、その対価が発生するのは
当然です。
現在では、人は、自らの時間と労力を雇用者に提供して、その報酬を得て生活する
ということ自体が社会の仕組みとされているのですから、提供した労働に対して
適正な報酬が支払われないのは、搾取に他ならず、奴隷契約と一緒であり、
社会の仕組みに反することです。
労働者が、残業などをしたのに、これに対する適正な対価の支払いを求めないのは、
値段以上の売り物を持って行ってしまう客を放置しているのと同じことと思います。


近年、残業代等の請求事件が徐々にではありますが増えてきている感覚です。
これに対しては、経営者の立場から批判が上がることもあり、中には、
あらゆる手段や制度を用いてまで、対価の支払いを免れようとする動きも多いです。
しかし、繰り返しますが、決められた労働時間を超えて労働力を提供したなら、
その対価が発生するのは当然です。


ただ一方で、残業代の請求といっても、一体どのような場合に発生するのか、
どのように計算すればいいのか、支払ってもらえない場合どんな方法があるのかなど、
労働者の側が正当な対価の請求を知らないことも多いようです。
あるいは、うちの会社には「固定残業代」の制度があるとか、残業代が発生しない
「管理監督者」にされているとか、一見では残業代が請求できないかのように
されているところも多いかと思います。


今後、しばらくの間、残業代の請求とはなんぞやというテーマで、
解説を試みたいと思います。