残業代計算後半。残業代計算の基礎となる給料とは。

こんにちは。弁護士の今春です。
今日は、昨日に続いて、残業代の計算方法をまとめていきます。


残業、すなわち、所定労働時間外の労働を行ったそれぞれの場合の、
割増率については、昨日の説明でご理解いただけたでしょうか。
ご理解いただけたと考えて、先に進みますが、それでは「割増率」と言いますが、
何に対して「割増」を計算するのでしょうか。



1 「時間単価」の賃金


これまでは、通常の「時間賃金」などと書いてきましたが、
何のことか分からないと思いますので、説明します。


労働基準法では、時間外労働に対する割増賃金の計算は、
通常の給料、すなわち所定労働時間に対する賃金を、
1時間あたりの単価(時間単価)に計算し直して、
これに「割増率」と、時間外労働時間をかけ算して出すこととなっています。


ただ、この「時間単位」の出し方については、多少ややこしいのです。



2 基本給について


具体的に見ていきます。
まず、いわゆる「基本給」についてです。
「基本給」は、労働の対価そのものですから、そのまま1時間あたりに
換算すればいいことになります。


時給制の場合には、分かりやすいですね。時給額=時間単価です。


次に、日給制の場合は、1日の所定労働時間数(最大で1日8時間ですね。)で
日給額を割った金額が時間単価です。
日によって所定労働時間が違う場合には、1週間のうちの1日平均で割り算をします。

週休制の場合は、1週の所定労働時間数(最大で1週40時間ですね。)で
週休額を割った金額が時間単位です。
週によって所定労働時間が違う場合には、4週間のうちの1週平均で割り算をします。

月給制の場合も、1か月の所定労働時間数で月給額を割った金額が時間単位です。
月によって所定労働時間が違う場合には、1年間のうちの1か月平均で割り算をします。
月給制の場合の最大の所定労働時間は、1週40時間が労働基準法の最大限で、
1年(365日)は、約52.143週(365日÷7日)ですから、
年間法定総労働時間は2085.72時間(52.143週×40時間)となり、
1か月では、173.81時間(2085.72時間÷12か月)となりますので、
最大で1か月173.81時間となります。
そのため、労働基準法の上限で計算する場合は、月給を173.81時間で割り算する
ことになります。
(うるう年の時には、366日÷7日×40時間÷12か月で174.28時間です。)



3 各種手当て


問題はここからです。
みなさんの給料明細を見ていただければ、給料として支払われているのは、基本給だけではなく、いろいろな手当等として、支払われている分があろうと思います。
これらの中にも、残業代を計算するにあたっては、計算の基礎となるものがあります。
残業代の基礎となる給料は、基本給だけではないのです。


法律は、割増賃金の基礎とする給料には、
家族手当、通勤手当(労働基準法37条5項)、
別居手当、子女教育手当、住宅手当など(労働基準法施行規則21条)は、
含まれないと定めています。
これは、上に挙げられた家族手当等が、労働の内容や量とは関係なく、
労働者それぞれの個人的事情(その労働者の扶養家族の有無、その人数など)に対して
支払われているものなので、労働そのものの対価とは言いづらいから、
所定労働時間外の労働に対する対価を計算するための給料からは
外しておきましょうという考え方です。


ですから、業務手当とか職能手当など、労働の内容等に関する手当は当然含まれますし、名称はどうであれ、上記の除外するとされた手当には、実質的にみて
あてはまらない手当は、残業代計算の基礎となる給料から外されません。


たとえば、家族手当や、通勤手当などとの名称で支給されている場合であっても、
それが、扶養している家族の有無や人数(家族手当の場合)、
通勤にかかる交通費等(通勤手当の場合)などの、
労働人個別の具体的な事情と関係なく一律に一定額が支給されているような場合は、
労働者それぞれの個人的事情に対して支払われている手当ではないことになり、
法律的には、家族手当や通勤手当とは評価されません。
その場合、名称は家族手当や通勤手当となっていても、残業代計算の基礎に入ります。

住宅手当も同様で、住宅の具体的な費用と関係なく一定額を支給するようなもの
(持ち家の場合は1万円、賃貸住宅の場合は2万円といった定め方も含む。)
であれば、法律的には住宅手当と評価されず、残業代計算の基礎に入ります。


要は、法律が除外するとした手当以外のものは、全部、残業代計算の基礎に入れられ、
法律が除外する手当の名前が用いられていても、その手当が法律の考えるものと
異なる手当は、全て、残業代計算の基礎となる給料に入れられるということです。


この他、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金についても、
割増賃金の計算の基礎には入れないとされていますから、
たとえばボーナスなどは、これに入らないと言うことになります。



4 専門の弁護士への依頼


以上、残業代の計算方法の基礎を、まとめてきました。


残業代の実際の計算については、上に書いたものをもとに、整理・計算するだけで
かなり手間ですし、正確にやろうと思うとなかなか大変ですから、
残業代の請求を考えられる方は、弁護士への依頼を検討される方が良いと思います。

また残業代の算出については、誰でもできるといえるようなごく簡単な事案というのは
あまりなく、上に書きました計算の元になる「時間単価」の考え方や、
「変形労働時間制」等の例外の取り扱い方、
年俸制だったり歩合制だったりする場合の計算方法、あるいは、
残業代支払い回避のために悪用されがちな
「管理監督者」や「定額残業代」の制度の取り扱い方などにおいて、
弁護士の中でも専門的な部類の作業になります。
せっかく、弁護士に依頼をするのであれば、
労働者側で労働事件を専門的に取り扱う弁護士を選択いただき、
本来、労働者として検討すべき事項を見逃されないようにしていただきたいと思います。


私の文章を見て、弁護士に相談しようと思われた方は、
まず、私(いぶき法律事務所、弁護士今春)へ依頼することを検討して下さいね。
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残業代の「割増率」について

こんにちは。弁護士の今春といいます。
今日からは、残業代の計算方法の基本を、まとめたいと思います。
まず第一弾の今日は、残業代、つまり時間外割増賃金の割増率についてです。


1 就業規則、賃金規程などによる、契約上の割増賃金


残業代、つまり、所定労働時間外に働いた別料金の計算方法ですが、
まずは就業規則等で決められているなら、
それが労働基準法より労働者に有利な条件である限り、
就業規則等の規定が優先になります。
たとえば、就業規則等で、労働時間が午前9時から午後5時まで、
途中休憩1時間で1日7時間を所定労働時間とされていて、
それを超える労働をした場合は30%の割増賃金と、定められているなら、
これに基づき、1日7時間を超えた労働時間について、
30%の割増賃金を請求できます(結果として130%の賃金)。


ですから、まず第一には、職場の就業規則で、
残業代の計算方法がどう書かれているかを知っておくのは大事です。



2 労働基準法による、割増賃金(労働基準法37条1項、4項)


一方で、法律は、残業代の計算方法についても、最低基準を定めています。
以前、労働基準法が「法定労働時間」を、原則1日8時間、1週40時間まで
と定めていると書きました。
これに対応して、この法定労働時間を超えて労働した場合、
その超過時間について、25%の割増賃金を請求できます。
これを「法外残業」といいます。
この場合、通常の給料の対象である労働時間外の労働を行っており、
通常の給料ではカバーされていない労働となりますから、
通常の時間賃金の100%を、あわせて請求できます。
つまり、法外残業時間について、通常の給料とは別に、
125%の賃金を請求できることになります。


(これに対し、就業規則等で定められた所定労働時間を超えるが、
法定労働時間の1日8時間、1週40時間を超えない範囲で残業したという場合を
「法内残業」といいます。「法内残業」の場合は、
就業規則等で特別に決められていない限り、割増賃金は請求できず、
通常の時間賃金100%のみを請求できます。)


また、労働基準法は、休日を原則として週1日以上としています
(労働基準法35条。「法定休日」といいます。)。
この法定休日に労働した場合、通常の残業よりも労働者の負担が大きいといえますので、
その労働時間について、通常の残業の場合よりも高い35%の割増賃金を請求できます。
その結果、法外残業の場合と同じ考えで、休日労働時間について、
通常の給料とは別に、135%の賃金を請求できることになります。


さらに、深夜労働、すなわち、午後10時から午前5時までの間に労働した場合、
労働者の負担は増しますから、この時間分について、25%の割増賃金を請求できます。


なお、この深夜労働については、法外残業、休日労働に及んでいるときには、
重複して請求ができます。
つまり、法外残業が深夜に及ぶ場合、割増率は25%+25%で50%に、
休日労働が深夜労働に及ぶ場合、割増率は35%+25%で60%に、
それぞれなります。この結果、それぞれの時間分について、
150%あるいは160%の賃金を請求できることになるのです。
ただ、深夜労働が、所定労働時間の労働である場合は、通常の時間賃金部分は、
通常の給料として支払われていることになりますから、
25%の割増部分のみが、追加で請求できることになります。



3 まとめ


以上を、簡単にまとめれば、


法外残業(1日8時間、1週40時間を超える分)については125%以上、


法定休日労働については135%以上、


深夜労働(午後11時から午前5時まで)については、25%以上の割増、
深夜法外残業であれば150%以上、
深夜法定休日労働であれば160%以上


の賃金をそれぞれ請求できるということです。



明日以降に、続きます。

労働時間をどう証明するか。

こんにちは。弁護士の今春といいます。
今日は、少し実践的に、労働時間をどう証明するかを、考えたいと思います。


1 労働時間の立証


昨日、使用者(会社、雇い主)が労働時間を管理する責任があると書きましたが、
それでも実際には、使用者が、適切に労働時間を管理していなかったり、
実際の労働時間を故意に短く記録したり、あるいは、
労働時間を把握していないと言い張ったりすることも多いです。


また、裁判等においては、労働時間を証明する責任は、
労働者側にあるとされていますので、労働者の側が、自分の労働時間を示す証拠を
確保しておかなければならないと考えておいた方がいいでしょう。


そのための方策を、いくつか挙げます。



2 タイムカード


1つは、タイムカードの写しを確保しておくことです。
携帯電話のカメラで撮影しておくので構わないと思います。


出勤時と退勤時にタイムカードを打刻することになっている職場も多いと思います。
そのため、タイムカードがあると労働時間の立証はだいぶ楽になります。
もちろん、タイムカードがあっても、出勤退勤時刻の管理をしているだけで、
労働時間とは関係がないなどと主張する会社もあるのですが、そのような場合には、
タイムカードの打刻時間と実際の労働時間とは異なることを、使用者の方が
より積極的に主張立証しなければならない流れとなります。
ですから、ちゃんと労働の対価を支払えてもらえていないと考えるときは、
いの一番に、タイムカードの写しを確保しましょう。


この点、タイムカードなどというのは使用者が保管しているのですから、
裁判等になった場合、使用者が出せばいい話なのですが、実際には、
なんやかんや言って、出してこない使用者も少なくありません。
(なお、使用者がタイムカードの開示を特に理由もなく拒否したことをもって、
不法行為にあたるとした裁判例もあります。)。
そのような場合に困ることがないよう、やはり確保しておくことをおすすめします。



3 業務日報等、日常業務で作成する書類


2つ目は、業務日報や報告書、シフト表など、
仕事・業務にあたって作成する必要がある文書で、
それを見れば、何時から何時まで働いていることが分かるものがあれば、
そのコピーを確保しておくことです。


これらは、業務のために作成されているものですから、証拠としては価値が高い
と扱われることが多いです。
タイムカードがない場合等であれば、その他にも、
日常業務の中で労働時間が分かる書類は何かないか、考えていただいた上で、
その写しを確保することが大事です。



4 自分で作成したメモや日記


3つめは、会社等の資料等がないような場合や、
そのような資料があっても実際の労働時間を反映していないというような場合には、
労働者自身で作成したメモや日記も証拠になり得ます。


確かにメモなどの場合、労働者の側で自由に作れますから、
裁判等での証拠としては、信用性が若干下がるとされることも多いのです。
しかし、たとえば、毎日その日のうちに書くようにするとか
(あとでまとめて書いたメモなどは、証拠としての価値は下がると考えて下さい。)、
その日に書いたと分かる内容(天気や気候、その日にあったことなど)を盛り込むとか、
時間だけでなく、その日にやった作業内容をあわせて書いておくとか、
証拠として価値を上げるための工夫の余地はあります。
もちろん、フェイスブックやツイッターなどに退勤時間をその都度上げておくなど
というのも、証拠としては、かなり価値がある場合もあると思います。


なお、残業代を請求しようと裁判等をするにあたっては、労働者の側で、
自分は何時から何時まで働いたと主張しなければなりません。
何時から何時まで働いたか分からないという場合には、
大体働いていたことに間違いない時間を想定して労働時間を算出するしかありませんが、
そうすると実際に働いた分よりは、だいぶ、損をすることになろうかと思います。
そうならないためにも、労働者が、毎日何時から何時まで働いているかを
手元に残しておくのは、自己防衛のための第一歩かと思います。



5 その他、考え得る証拠


そのほかには、たとえばパソコンを仕事で使う人であれば、
そのパソコンのログ履歴とか、メールの送信履歴とかも証拠になり得ます。
携帯電話の通話履歴や、それこそ職場の電話の通話履歴も証拠になり得るでしょう。


タクシーやトラックの運転手であれば、デジタルタコメーターの記録なども、
労働時間を示す証拠になり得ます。


また、少し発想を変えて、
出退勤時の自動改札機を通過した時刻の履歴(ICカード等)なども、
労働時間の立証に役立つ証拠になり得ます。
職場に最後まで残る働き方をされているなら、職場の電子錠の解錠・施錠記録とか、
警備会社のセキュリティー開始・解除時刻の記録とかも、
証拠として考えられるでしょう。



6 さいごに


実際に働いていた場合、その痕跡はいろいろな形で残っているものです。
最後まで諦めずに、労働していた証拠を探しましょう。