残業代等の「時効」と「遅延損害金」について

こんにちは。大阪の弁護士の今春です。
今日は、「時効」の話と、「遅延損害金」の話をしたいと思います。



1 給料等の時効は2年!


残業代、時間外割増賃金を含む、賃金については、
「消滅時効」が2年と定められています。
つまり、通常の給料を含め、支払時期(通常は給料日ですね。)から2年後には、
給料に未払があっても、法律上、請求することができなくなるということです。
残業代も、本来それが支払われるべき給料日から2年経つと、
法律上は、もはや請求できないということになります。


逆にいうと、給料日から2年経っていないものについては、
さかのぼって請求できるということです。


ですから、以前から支払ってもらえない残業代その他があるという方は、
2年前の1か月分の残業代等が、毎月の給料日が過ぎる度に、
着々と消えていっているという状況だと考えて下さい。


そのため、正当な残業代その他を支払ってもらいたいとお考えの方は、
早めのご相談をおすすめします。



2 給料の(通常の)遅延損害金は6%


通常の給料も、残業代等の時間外割増賃金も、支払われるべき期限を過ぎても
支払われないときには、当然のことですが、「遅延損害金」(利息)がつきます。


通常、給料日が定められていると思いますので、その日に支払われない残業代等には、
次の日から「遅延損害金」を付して支払われなければならないことになります。


この利率は、使用者が営利企業などである場合、法律上「商人」となりますから、
年6%です(商法514条)。
営利が目的でない職場(公務員等)の場合には、民法にしたがい、
年5%となります(民法404条)。



3 退職後の遅延損害金は14.6%


年6%(あるいは年5%)の遅延損害金がつくというのは、
その職場で働いているときのことです。
退職した後については、もっと高い遅延損害金が付されることになります。


すなわち、退職日(退職日後の給料日に支払われるべき給料がある場合は、
その給料についてはその日)を過ぎても未払いの給料、残業代等がある場合は、
その翌日から、年14.6%の遅延損害金がつくことになっています
(賃金の支払いの確保等に関する法律6条1項)。
税金の延滞金と同様の高い遅延損害金が定められているのす。



4 裁判になれば倍払いも!


いよいよ使用者が、残業代も含む給料等を支払わないというときには、
最終的には裁判で請求することになりますが、その場合、
「付加金」を請求することができます。
この「付加金」の金額ですが、裁判で請求する賃金と「同一額」となっています
(労働基準法114条)。


最終的には、裁判所がこの付加金の支払いを命じるかどうか決めることになりますが、
これが認められれば、本来支払われるべき給料等の2倍を支払ってもらえる
ということになります。


以上のように、給料等については、その支払いが確実になされるようにするため、
法律は、未払について通常より厳しいペナルティを課しているのです。

厚労省の「長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果」

こんにちは、大阪の弁護士の今春です。


1月17日、厚生労働省が、
「長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果を公表します」
との資料を発表していました。



これによると、3450の事業場で、月80時間を超える残業があったと
認められたとあります。


この点、月45時間を超えて時間外労働が長くなれば、
脳血管疾患、虚血性心疾患等の発症との関連性が強まる、
月80時間を超えれば、関連性が強いといえる、
とされています。
そのため、月80時間以上の時間外労働は、
いわゆる過労死ラインなどと言われているのです。
その月80時間を超える時間外労働をさせている事業場がこのような多数に及ぶ
というのは、尋常ではありません。


また上記の資料によると、月200時間を超える事業場が116もあった
とされています。
法定労働時間は月173.81時間(365日÷7日×40時間÷12か月)
なのですから、月200時間も残業するということは、
月373時間以上も働いているということです。
単純に月30日として計算しても、1日12時間働いてもまだ全然足りません!
寝る以外には全て働き、1日の休みも与えられなかった職場ということになります。
本当に尋常ではありません。


さらに目を引くのは、残業代を払っていない事業場のうち、
月80時間を超える事業場が実に63%を占めたとされていることです。
やはり、長時間の残業を強いるような職場は、
残業代を支払わない傾向を示しているということです。


今回の調査で、厚労省は、問題のあった事業場の実名等を公表していませんが、
もはや公表を躊躇している程度ではないと思います。


実際に行われた指導例も、載せられていました
(上記ウェブサイトにある、別添2監督指導事例というPDF)が、
これも本当にひどいですね。


事例1は、サブロク協定で決められた月80時間の制限を守らず、
最も長い労働者で月200時間も残業させていたというのです。
サブロク協定での残業制限時間が、月80時間とされていたということ自体、
過労死ギリギリまで働かせるという姿勢が丸見えです。
そもそもサブロク協定でも、原則月45時間以上の上限時間を定めることはできず、
臨時的(一時的突発的)に限度時間を超えなければならない特別の事情があるときのみ、
これを超える時間を限度時間とできるとされているのです
(この事業場も、この例外制度を利用しているようです。)。
ところが、この事業場は、臨時的ではなく、恒常的に月80時間を超える
労働をさせています。
サブロク協定は形だけ定めたというしかありません。
しかも、実際にはその疑問のあるサブロク協定の制限さえ守らず、
月200時間もの労働をさせていたというのです。
使用者の労働者に対する、働かせるだけ働かせたいとの強固な意志が、感じられます。
悪質との評価を免れません。


事例2はもっとひどいです。
サブロク協定の上限時間を月120時間とし、かつ、それさえ守れないことから、
上司がタイムカードを不正打刻し、月120時間以内しか残業がないように装った、
かつ、タイムカードで記録した労働時間以外の残業代は支払っていなかった、
というのです。
既に別の記事で書きましたが、
使用者は労働者の労働時間を個別に把握、管理する義務があります。
実際と異なる労働時間を不正に作出するなど、もってのほかです。
このような悪質な行為を、会社が組織的にしていたというのですから、
一体何をしてくれているのだといいたくもなります。
さらに、サブロク協定で、月120時間の上限時間を定めていたということですが、
上記のとおり、月80時間以上は、過労死に結びつくぞと警告されているのです。
それにもかかわらず、「臨時的」に
(この事業場の実際の労働環境では、臨時でも何でもありませんが。)であれ、
これを大幅に上回る月120時間も労働させることがあるとなどとの協定は、
そもそもその効力に疑問が持たれていいレベルと思います。


事例3も振るっています。
サブロク協定の上限時間を月125時間(!)とし、
さらにこれを超えて月160時間もの労働をさせていたというのです。
信じられないというべきレベルです。
さらに、この事業場は、引越業ということですが、1日最大16時間以上の拘束
(1日の途中で仕事がない時間(次の仕事までの待機時間等)があり、
その時間は労働時間として扱わないとしていたということです。)、
1か月の総拘束時間が320時間を超え、
なおかつ、勤務を終えて帰っても8時間後には働かされている
という労働環境であったというのです。
この使用者は、労働者をもはや人間と扱っていないといわれても仕方がないと思います。



不幸にしてこのような職場で労働に従事している方は、一刻も早く、
労働を専門とする弁護士へのご相談を強くおすすめします。


もちろん、私も、ご相談をお受けします。

どのような労働者が「管理監督者」にあたるのか。

前回、裁判所は、「管理監督者」を厳格に解釈しており、
「管理監督者」にあたる労働者はそれほど多くないとの判断をしていると書きました。


今回は、どのような労働者が「管理監督者」にあたるとされているのか、
具体的に解説したいと思います。



1 3つの判断要素


「管理監督者」にあたるかどうかの具体的な判断要素は、
大きく分けて3つあるといわれています。


まず1つ目は、
労働者の職務内容、権限、責任からみて、経営者と一体的である
と言えるほどの地位にあること
ということです。


2つ目は、
労働時間、出勤・退勤時間等について自由な裁量があること
です。


もう1つの基準は
待遇面で、その地位にふさわしい優遇を受けていること
です。


順番に見ていきます。



2 職務内容、権限、責任から、経営者と一体的な立場か。


「管理監督者」は、経営者と同じ立場といい得るから、
本来及ぶ労働者保護の規制を及ぼさないとしているのですから、
経営者と一体的な地位と言えるほどの職務内容で職務遂行をしているかどうかが、
「管理監督者」にあたるかどうかを決める鍵になります。


経営者と一体的な地位かどうかは、
経営にとって重要な会議に出席している、経営に関する意思決定に関わっているなど、
その企業の経営へ参画しているとか、
他の労働者の採用や解雇、人事考課、昇進・昇格等へ関与しているなど、
労務管理について指揮監督権を有しているとか、
経営計画策定や予算案編成へ関与しているなど、
職務の内容や責任が重要であるとか、
これらの要素を総合的にみて判断します。


裁判例では、たとえばある一部門を統括する立場にあっても、
それだけでは経営者と一体とは言えず、その統括する立場が
企業全体からみて事業経営上の重要な位置づけとされていて、
企業全体の経営へ参画していたといえるような立場の労働者が
「管理監督者」といえるとしています。


また、飲食店などで店長、店舗責任者とされていても、
その店舗のみの事項に権限、責任が限られているような場合は、
やはり経営者と一体的な立場と言えるような
重要な職務と権限を付与されているとはいえないとしています。


さらに、他の労働者の労務管理に関わっていたといっても、
部下からの届出に承認を与えるとか、人事考課に際して意見を言う程度とか、
上位者の考課が予定され、最終的に考課の判断をしているわけではないとかの場合は、
これも経営者と一体的な立場にあるとはいえないとされています。



3 労働時間が自由であるか。


「管理監督者」は、労働時間の規制をしなくても、
労働者保護に欠けることにはならない立場といえなければならないのですから、
逆にいうと、自分の判断で、必要に応じて労働時間を調整できるだけの裁量を持ち、
実際にそれを行使できることができるということになります。


そのため、タイムカード等で労働時間を管理されているとか、
出勤・退勤時間を決められているという立場であれば、
「管理監督者」ではないとなるでしょう。


また、業務の内容から長時間労働を余儀なくされ恒常的に残業を強いられていたとか、
労働時間のほとんどを経営判断と関係のない現場作業等に費やされていたなどの場合も、
労働時間を労働者自らが自由に調整できたとはいえないとなり、
「管理監督者」ではないということになるでしょう。



4 待遇面で優遇されていること


「管理監督者」は、経営者と一体的な立場であり、普通の労働者とは異なるのですから、
十分な待遇面での優遇があって当然です。


ですから、特別手当が支給されるなどの優遇があるか、どの程度優遇されているか、
その優遇の理由は何に対する対価か、などが重要となります。
また、労働者全体の中で待遇の水準の位置付け、
「管理監督者」になる前の収入とどれだけ変化があるか、
「管理監督者」ではない労働者とどれだけ賃金に差があるか、
なども、重要な判断要素とされることになります。



5 やっぱり「管理監督者」はそれほど多くない


以上、「管理監督者」といえるかどうかの判断要素を見てきましたが、
いかがでしょうか。
「管理監督者」といえるのはごく一部の労働者であり、
企業の経営にタッチしているような立場でなければ「管理監督者」ではないのだ
ということがおわかりいただけたでしょうか。
繰り返しますが、いわゆる「管理職」だからといって、
法律上でいう「管理監督者」ではありません。
「管理職」だからといって当然に残業代等の支払を受けられないとはならないのです。


なお、就業規則や労働者個別の合意で、その労働者を「管理職」とし、
残業代を支払わないとしている事例も多くみられます。
しかし、これまで見てきましたように、
「管理監督者」かどうかは法律上当然に決まります。
そして、法律上「管理監督者」にあたらなければ、
残業代等の適用除外は許されないことになります。
ですので、法律上「管理監督者」にあたらない労働者について、
いくら使用者が「管理職」の肩書きを与えようと、
労働者個人と個別に「管理職」とすると合意しようとも、それは無効です
(このような合意等の効力が否定された裁判例はいくつもあります。)。


あなたは「管理職」だから残業代は支払われないと使用者から言われている、
そのような確認書に署名した、などという方も、
ご自身が本当に、法律上「管理監督者」といえるかどうか、
法律上、残業代等の支払を受けられない立場なのかは、
疑ってみて良いかと思います。