残業「月80時間」の上限規制?

1 残業「月80時間」規制?


残業時間について、「月80時間」との上限規制を設け、
長時間労働の是正策とする方向で「調整に入った」との報道がなされています。


http://mainichi.jp/articles/20170125/ddm/001/010/140000c


月80時間以上の残業をさせる事業場が多数あるという現在の状況を考えれば、
残業時間の規制が明確に設けられること自体は、いいことだと思います。
これに違反すれば、労働基準監督署などによる指導を積極的に促すことも
できるからです。



2 残業「月80時間」なら、脳血管疾患になるよ!


しかし、前にも書きましたように、残業が月80時間というのは、
「過労死ライン」とされている労働時間です。
残業が月45時間を超えると、脳血管疾患や心疾患等の発症との「関連性が強まり」、
月80時間を超えれば「関連性が強い」とされているのです。
乱暴に言えば「残業月45時間以上働くと脳血管疾患等になりやすいよ。
月80時間を超えればなるよ!死ぬよ!」ということなのです。

また、労働法関係で「上限」が定められれば、その数値が普通であるかのように
取り扱われる傾向が強いことからすると、「月80時間までなら残業させ放題!」
との誤った認識が広まることも懸念されます。
法定労働時間の月173.81時間に加えて月80時間も働くということは、
月253.81時間働かせてもいいとのお墨付きを与えることになりかねないのです。
月253.81時間働くということは、平日は毎日12時間以上働くということです。
このような働き方(働かせ方)が、普通などとされてはいけません。


記事にも出ていますが、上限を定めるなら残業は月45時間以内とすべきでしょう。
この時間を超えると、「脳血管疾患等になりやすいよ。」と指摘されているのです。
長時間労働による労働者の健康被害を防ぐというなら、
この月45時間を超えてはいけません。



3 例外は不要


なお、この残業月80時間規制も、よくよく調べると、
様々な例外を設けようとする動きもあるようです。
記事でも、「運輸業などで認められている適用除外も残す方向」などとされています。


運輸業などは、それこそ慢性的な著しい長時間労働が跋扈しているのが現状であり、
長時間労働の規制がむしろ強く要請されるはずです。
そもそも、上記のように、月80時間の残業は、平日に毎日12時間以上
働くことを意味しているのですから、本当に業界として、それ以上働かせる必要がある
というなら、それはもはや「ブラック業界」を名乗らなければなりません。
例外を設ける働かせ方を容認する必要はないはずです。


仮に、一時的な例外もやむを得ない(そのようなことはないと思いますが)としても、
それが常態化しないようにする仕組みにしなければ、かならず、
原則と例外が逆転していきます。


原則と例外ということでいえば、1日8時間、1週40時間労働が「大原則」であり、
労働基準法32条は、これを超えて「労働させてはならない」としているのです。
法定労働時間内の労働が原則、それ以上の残業は例外なのです。



4 世論が大事


この規制は、2019年度からの導入を目指すということですので、
今の国会の状況からすれば、あっという間に固められてしまうと思います。


一方、政府・与党関係者も「世論の動向も重要だ」とするようですので、
長時間労働の是正と称して設けられた規制が、いつのまにか、
著しい長時間労働を正当化、常態化させる制度とならないよう、
関心をもっていく必要があります。


自らを「社蓄」などと蔑んで、
長時間労働は仕方がないと諦めている場合ではありません。