残業とは?残業は義務なのか?

今日から私の事務所も、本格始動です。


今日は、残業そのものの考え方について、書いていきます。


1 所定労働時間(=働かないといけない時間)について


1日何時間働く義務があるのかは、労働契約によって決められています。
労働者が労働契約で、働かないといけないとされる時間を、
「所定労働時間」といいます。
この「所定労働時間」は、通常、就業規則で決められています。
就業規則では、始業時刻、終業時刻を定めなければならないとされています
(労働基準法89条1号)から、就業規則がある以上は、
労働時間は1日何時間というだけではなく、何時から何時までという時間帯も
必ず定められているということになります。
就業規則がない場合でも、採用されるときなどに、
働く時間は何時から何時までと示されることが多いと思いますので
(示されないようであれば、「ブラック企業」のにおいがするとなるでしょう。)、
それが「所定労働時間」になります。


この「所定労働時間」の時間外に働くと、所定労働時間「外」労働となり、
別料金が発生するということになります。


これがいわゆる残業代です。



2 法定労働時間(=法律で定められた労働時間の上限)について


一方で法律は、原則としてこれ以上働かせてはいけないという基準を、
1日単位と1週間単位の両方で設けています。
労働基準法32条で、労働時間は、1日では8時間、1週間では40時間を
超えてはならないとされていて、労働時間の上限を定めているのがそれです。
これを、「法定労働時間」といいます。


そのため、いくら労働契約や就業規則その他で、1日8時間、1週40時間を
超える労働時間を「所定労働時間」と定めても、それは無効です。
(「変形労働時間制」という例外がありますが、これは就業規則や労使協定で
予め定めていなければならず、かつ、法律で決められた細かい条件を満たす必要が
あります。)


ですから、どんな労働時間の決められ方がされていても
(あるいは、決められていなくても)、1日8時間、1週40時間を超えて労働すると、
所定労働時間「外」労働となり、別料金が発生するということになります。



3 残業する義務があるのか


上記の1日8時間、1週40時間の「法定労働時間」は、人を労働させる場合の
上限の時間です。
これを超えて労働させること、残業させることは、できないのが大原則です。
ですから、1日8時間、1週40時間を超えて残業しなければならない義務も、
本当はないというのが大原則なのです。
(なおこの点、たとえば、就業規則等で1日7時間が所定労働時間とされていて、
あと1時間働かされたという場合は、その1時間は残業であり残業代は発生しますが、
残業する義務はないとは言い切れません。)


この大原則にもかかわらず時間外に労働をさせれば、労働基準法違反となり、
懲役6か月以下、または罰金30万円以下の犯罪とされてもいます
(労働基準法119条1号)。


ところが、現在の労働基準法には上記の大原則に大穴が空いています。
労働基準法36条というやつです。


これには、使用者と労働者との間で書面で協定をし、それを行政官庁に届け出れば、
例外的に法定時間を超えて労働させたり、法定休日に労働させることができると
あります。
つまり、労働者と使用者の間で、時間外や休日労働について合意した内容を
書面にまとめ、その届出がなされている場合は、それにしたがって、
時間外や休日労働をさせても適法になるとされているのです。
この協定を、労基法36条による協定なので、サブロク協定と言われており、
かなりの場合、このサブロク協定が存在するので、法律の大原則と例外が、
実際には逆転しているような格好となっているのが現実なのです。



4 残業が前提というのはおかしい。


サブロク協定の存在のため、残業は当然で、命じられれば残業しなければならないのが
原則のようになっているのが現状といっても過言ではありません。


ただ、サブロク協定は、その条件が法律で定められていますし、
労基署に届出をしなければ効力がありませんから、
実際には、サブロク協定がなかったり、その効力がなかったりして、
実は残業自体、法律違反だという事案も、少なくありません。


また、厚生労働省労働基準局昭和63年3月14日第150号通達というのが
ありまして、これには、残業というのは、臨時的、一時的に、
やむを得ない必要がある場合に限って認められるとされています。


さらにいえば、たとえば、育児介護休業法という法律には、サブロク協定があっても、
原則として、小学校就学前の子どもを養育する労働者には、
1か月24時間、1年150時間を超えて労働時間を延長してはならない
という規定もあります(育児介護休業法17条1項)。


残業が当然のように扱われるとか、ほぼ毎日残業する義務がある、というのは、
本当は、全くおかしいことなのです。


しばらく続きます。